人工知能
オルガノイドインテリジェンス:2023年の研究計画と可能性

量子コンピューティングは、将来の計算技術を大きく進歩させる候補としてよく挙げられます。2023年には、研究者らが別の可能性としてオルガノイドインテリジェンス(OI)を提案しました。
ムーアの法則は、集積回路上のトランジスタ数の増加を表すものです。ゴードン・ムーアは1965年にほぼ毎年の倍増を予測し、1975年には間隔を約2年に修正しました。コンピュータの価格が常に半減するという一般法則ではありません。発熱、電力消費、製造上の物理的制約が、微細化の継続を難しくしています。
こうした制約は、別の計算方式を研究する動機になります。ただし、ムーアの法則が特定の年に終わることや、OIが必ずシリコンベースのコンピュータに取って代わることを意味しません。
オルガノイドインテリジェンスとは?
OIの構想と研究計画は、2023年にジョンズ・ホプキンス大学の研究者と共同研究者らによって具体化されました。彼らはOIを、ヒトの脳細胞の三次元培養体である脳オルガノイドと、細胞培養体を機械につなぐインターフェースを用いて生物学的な計算を研究する、新たな学際領域と位置付けました。
OIは、刺激を与えて応答を測定できる電子インターフェースと細胞培養体を組み合わせることを目指します。研究者らは、こうしたシステムが学習し、特定の課題を実行できるかを調べています。
高度なOIシステムの実現には、さらに数十年かかる可能性があります。培養組織に関する長年の研究が基盤ですが、実用的な生物学的コンピュータには多くの技術開発が必要です。
2022年には、ブレット・ケーガンらCortical Labsと共同研究者のチームがDishBrain実験を報告しました。この実験では、培養した神経細胞が、簡略化したゲーム「Pong」で成績を改善することを学びました。使われたのはヒトまたはマウスの神経細胞の二次元培養と電極アレイであり、三次元の脳オルガノイドではありません。人間のような意識を示した結果でもありません。
なぜオルガノイドインテリジェンスを開発するのか?
生物学的システムとシリコンベースのシステムには、それぞれ異なる強みがあります。人間の脳は比較的少ないエネルギーで学習し、複雑な情報を処理できます。一方、現在のコンピュータは正確な計算を非常に高速に行います。OI研究では、生物学的な学習の性質を計算に生かせるかを探っています。
OI研究者のトーマス・ハートゥングは、エネルギー消費の違いを説明するために、脳とスーパーコンピュータFrontierを比較しました。Frontierはテネシー州オークリッジにあり、2022年5月に世界最速のスーパーコンピュータとなりました。ハートゥングは約6億ドル、6,800平方フィートの設備として紹介しました。脳の計算能力と消費エネルギーに関するこの比較は説明のための例であり、同じ条件の性能試験によって人間の脳を上回ったことを示すものではありません。
OIは、学習や計算の新しい方法につながる可能性があります。しかし、すべての課題で既存のコンピュータより高速、知的、あるいは省エネルギーになることは証明されていません。2023年の研究計画は、その後の実験や既存技術を補う可能性のある技術の基盤を築くものでした。
課題の一つは、より大きく、長期間生存できるオルガノイドを培養することです。当時ハートゥングの研究室で使われていたものは約5万個の細胞を含んでいましたが、これはすべての脳オルガノイドに当てはまる数ではありません。大規模化には栄養供給、長期的な生存維持、情報の入力と読み出しの方法も必要です。シリコンベースのAIが、その開発や解析を助ける可能性があります。
考えられる用途
2050年にOIが実用的な技術になった未来を想像してみましょう。これは思考実験であり、完成時期の予測ではありません。生物学的コンピュータやその開発研究は、どのような分野の理解に役立つでしょうか。
脳の疾患と発達
脳オルガノイドは、アルツハイマー病や統合失調症の仕組み、自閉スペクトラム症に関連する神経発達を調べるために役立つ可能性があります。これらの異なる疾患や発達上の状態を、一種類の脳損傷として扱うべきではありません。
こうした研究モデルは、医薬品の開発や治療効果の評価にも役立つ可能性があります。あくまで研究上の用途であり、OIがこれらの治療法をすでに生み出したことを意味しません。
情報の受け取り、解釈、統合
OI研究は、健康な脳の働きや発達の理解にも貢献する可能性があります。例えば、人間の脳が次の処理を行う仕組みを調べます。
- 情報を取り込む
- 情報を解釈する
- 新しい情報をすでに学んだ知識と結び付ける
これらの過程をよりよく理解できれば、教育の改善や生涯にわたる学習の支援につながる可能性があります。その効果は今後の研究で確かめる必要があります。
主な懸念
OI研究では、培養した神経細胞を操作し、実験を行います。そのため、期待される利点とともに、研究の限界や倫理的な問題を検討する必要があります。以下は議論される二つのテーマです。
シンギュラリティ
技術的シンギュラリティとは、AIの発展が加速し、人間には制御や予測ができなくなるという仮説上の状況です。OIがその原因になるという考えは推測にとどまります。2050年の想像上のシナリオは、オルガノイドが人間の知能や意識を獲得することを示す証拠ではありません。
シンギュラリティには、自己意識を持つ機械という考えが結び付けられることもあります。レイ・カーツワイルは著書‘The Singularity is Near’で技術の加速的な発展を論じ、シンギュラリティを2045年ごろと予測しました。これは彼の予測であり、OI研究で実証された日程ではありません。
フィクションでは、自己意識を持つ技術が脅威として描かれることがよくあります。こうした物語は変化や制御への不安を表しますが、実際のシステムの振る舞いを示す証拠ではありません。
倫理
オルガノイドが複雑になるにつれ、その倫理的な位置付け、感覚を経験する能力の兆候、実験の限界を継続的に評価する必要があります。2023年のOI提案は、研究者、倫理の専門家、市民が開発過程に参加し、細胞提供者の同意とプライバシーを守ることを重視しました。刺激への反応だけで、人間のような意識があるとはいえません。
おわりに
2023年時点のOIは、形成途上の学際的な研究計画であり、汎用的な計算に使える完成済み技術ではありませんでした。脳の研究や新しい計算方式への可能性は魅力的でしたが、実験、技術開発、倫理的評価をさらに重ねる必要がありました。













