サステナビリティ
太陽エネルギーで空気中の水分を回収する技術

カナダやブラジルは国全体では豊富な水資源を持ちますが、すべての地域で安全な水を同じように利用できるわけではありません。世界の多くの乾燥地域では淡水不足が深刻です。その対策の一つとして、大気中の水分を回収する装置、AWHが研究されています。
2023年、上海交通大学の研究者らは太陽熱と吸湿性の高い多孔質ゲルを利用する試作システムを報告しました。ゲルは窒化チタン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、塩化リチウム(LiCl)からなり、THLと略されます。25℃、相対湿度15~90%で材料の水分取り込み能力を調べました。吸着は水蒸気を材料に取り込む過程、脱着は取り込んだ水分を放出する過程です。あらゆる気候で実用化済みという意味ではありません。
2023年の研究論文では、夏と冬の屋外試験でそれぞれ相対湿度約60%と約30%の条件で水を回収したと報告されています。湿度15%での材料試験と屋外での回収量は別の測定です。試作機の実証を、どこでも大量の水を安定供給できる証明と解釈してはいけません。
出版社の解説によると、試作機には脱着室と凝縮室があり、水の回収率を高めるためにファンも使われました。太陽エネルギーを利用することと、全構成要素が無電力で動くことは同義ではありません。原文のWHO基準への言及も、WHOによる装置認証や、どの環境でも回収水をそのまま飲める保証を意味しません。化学的・微生物学的な水質、保守、保管条件の確認が必要です。
大気水収集装置
新しい吸湿性ゲルは、AWHの性能改善を目指す研究成果です。世界中の既存装置にすでに採用され、効率が向上したという意味ではありません。まず、装置の方式の違いを整理します。
大気水回収装置は空気中の水分を集めます。空気を冷却して水蒸気を凝縮する方式と、材料に水分を取り込ませた後で熱を加えて放出させる方式などがあります。適性は温度、湿度、エネルギー、水質、必要量によって変わります。
冷却方式の装置では、例えば次の工程を使います。すべてのAWHが同じ構造というわけではありません。
- 空気の取り込み: 冷却方式の一部では、ファンで装置内に空気を取り込みます。
- 冷却と凝縮: 湿った空気を露点より低い温度まで冷やします。冷凍機やペルチェ効果を利用して冷却し、水蒸気を液体の水滴に変えます。
- 水の回収: 凝縮した水をタンクに集めます。用途によってろ過、消毒、ミネラル添加などが必要になります。凝縮しただけで安全性が保証されるわけではありません。
- 貯蔵と供給: 適切な処理と水質確認を行った後、安全に保管するか配管で供給します。
AWHには小型の携帯装置から大型設備まであります。回収量は温湿度と設計に左右され、湿度が高いほど有利になることが多い一方、極端に乾燥した条件ではエネルギーや材料の必要量が増えます。新しいゲルの試験だけで、すべての規模で低コストになるとはいえません。想定用途には以下がありますが、適性は個別に評価する必要があります。
乾燥・干ばつ地域: 水不足地域の補助水源になり得ます。ただし低湿度で需要が大きい場合、十分な量の確保が難しいことがあります。
軍事用途: 携帯型装置は遠隔地の部隊への補助的な給水に使える可能性があります。エネルギー、保守、気象条件などが制約になります。
遠隔地の地域社会と災害救援: 遠隔地や災害時にも活用が考えられますが、必要な量の安全な飲料水を直ちに得られるかは装置、処理、運用条件に依存します。
農業: 灌漑も研究対象ですが、農地の大きな水需要を満たすには回収量と費用の検証が必要です。小型試作機の成功は大規模灌漑能力の証明ではありません。
吸湿性ゲルや金属有機構造体(MOF)の研究は、低湿度で水蒸気を回収する選択肢を広げます。太陽熱がエネルギー需要の一部を担える一方、取り込み、放出、凝縮、水質管理を含む全体の評価が必要です。どの場所でも冷却方式より安価と実証されたわけではありません。
淡水供給
地球の淡水の約68.7%は氷床や氷河、約30.1%は地下水として存在します。これは地球の全水量ではなく淡水の内訳です。河川、湖、大気にある割合は小さく、水が存在することと、安全かつ経済的に利用できることは異なります。水不足地域では、次のような事情が安全な水へのアクセスを妨げる場合があります。
乾燥した気候: アフリカ、中東、南米、中央アジア、オーストラリアの一部には降水量の少ない乾燥・半乾燥地域があります。ただし雨が少ないだけで、空気中の水分量やAWHの適性が決まるわけではありません。
地下水の減少と汚染: 農業や飲用の取水量が自然・人工の涵養量を上回ると地下水が減少します。自然由来や人為的な汚染物質で水質が悪化する場合もあります。
インフラ不足: 遠隔地や資源の限られた地域では、集水、浄水、配水の設備が不足する場合があります。建設や運転の費用も課題です。
気候変動: 降水、干ばつ、氷河由来の水の変化が水源に影響します。地域や季節によって異なり、長期的な水の利用可能量も変わり得ます。
人口増加と都市化: 急速な人口増加や都市化は水供給に負荷をかけます。下水処理や汚染対策が十分でなければ、水質悪化にもつながります。
政治・経済・管理上の課題: 水資源の管理、資金、配分の問題で利用格差が生じます。新しい装置だけですべての問題が解決するわけではありません。
他の水源が不足する場所で、大気水回収は補助手段になり得ます。雨が少なくても空気が比較的湿っている地域が適する場合があります。導入判断には現地の測定と他方式との費用比較が必要です。
現在の解決策
水不足に対応する技術には、AWHの代替または補完となる方法があります。それぞれの適性は地形、水源、エネルギー、費用、維持管理に左右されます。
淡水化: 海水や汽水から塩分を除去して淡水を得る方法です。主な方式には次の二つがあります。逆浸透法では半透膜を通して水を分離し、熱方式では蒸発と凝縮を利用します。エネルギー消費、濃縮排水の管理、環境への影響を考慮する必要があります。費用や必要エネルギーは方式と場所で変わります。
排水の再生と再利用: 処理した排水は灌漑や工業などに再利用できます。飲用には、より厳密な処理、監視、基準への適合が必要です。再生水がすべて飲めるわけではありません。設備の規模や費用も条件によって異なります。
雨水利用: 屋根などから雨水を集めてタンクに貯めます。季節的な降雨がある地域の補助水源になり得ますが、量は降雨と貯水能力に制約されます。飲用では集水面の汚染、処理、保管の確認が必要です。
霧の集水: 網で霧の中の液体の水滴を捕まえて回収します。空気中の水蒸気を冷却・凝縮する方式とは異なります。霧が定期的に発生する沿岸や山地に適する場合があります。
地下水涵養: 雨水や適切に処理した水を地中に浸透させ、帯水層を補充します。涵養池、浸透施設、透水性の表面などを利用します。効果は地質、土壌、水質に依存し、無制限の地下水供給を保証するものではありません。
太陽熱による蒸留: 太陽熱で塩水や汚れた水を蒸発させ、その蒸気を凝縮して回収します。既存の水を浄化する方法で、新しい水分子を作るわけではありません。日射の多い場所での小規模利用に適する場合がありますが、生産量や揮発性汚染物質への注意が必要です。
複数の方式を組み合わせる方が適する地域もあります。安定供給には水源の保全、水質管理、運営体制も重要です。
水関連技術を扱う企業
*以下は水処理などに関係する上場企業の紹介であり、各社がTHL試作機を製造しているという意味ではありません。表には2023年の元記事の過去の評価指標を残しています。現在の株価や検証済みの最新指標ではなく、時点、株式構成、会計基準の違いにも注意が必要です。*
1. Ecolab Inc.
ECL 価格チャート
ECL 価格チャート
| 時価総額(米ドル) | PER | 1株当たり利益 (EPS) |
| 55,298,590,992 | 44.88 | $4.31 |
Ecolabは水、衛生、産業プロセスに関する技術とサービスを提供します。水処理や再利用に関する事業は水資源管理に役立ちますが、この紹介は同社がTHL試作機を製造している証拠ではありません。
2. Danaher Corporation
DHR 価格チャート
DHR 価格チャート
| 時価総額(米ドル) | PER | 1株当たり利益 (EPS) |
| 161,802,868,620 | 27.58 | $7.93 |
Danaherの旧環境・応用ソリューション事業は2023年9月30日にVeraltoとして分離されました。Pall WaterもPall Corporationから分かれ、Trojan Technologiesの一部となってAria Filtraへ改称しました。一方、Pall Corporation自体はDanaherに残りました。旧水質事業をすべて現在のDanaher事業と説明するのは不正確です。DHRチャートと過去の表はVeraltoの評価指標ではありません。
3. Xylem
XYL 価格チャート
XYL 価格チャート
| 時価総額(米ドル) | PER | 1株当たり利益 (EPS) |
| 25,890,548,183 | 43.98 | $2.44 |
米国のXylemは、水や排水の収集、処理、検査、輸送に関する技術とサービスを提供します。実際の効果は各事業の条件と実施方法に依存します。同社の紹介は、この研究のTHLゲルを製造しているとの説明ではありません。
今後の可能性
水資源が豊富な国でも、安全な水へのアクセスには地域差があります。乾燥地域でも適切な対策は一様ではありません。吸湿性ゲルなどの新しい技術は、大気中の水を回収する研究の一方向です。2023年の試験は材料と試作機の可能性を示しますが、広い実用化には長期の回収量、エネルギー、費用、耐久性、水質の検証が必要です。
水不足の軽減には、新技術とともに水源保全、適切な排水再利用、配水改善、地域の管理が関わります。一つの初期技術だけで、あらゆる場所の安全な水供給が保証されるわけではありません。












