エネルギー
大きな回転翼のない風力発電が常識に挑む

風といえば動きを思い浮かべます。では、風力発電でおなじみの大きな回転翼を使わずに、風から電力を得ることはできるでしょうか。
それを目指す新しい技術が登場しています。大きな外部の回転翼を使わない一方、揺れるマストや内部のローターなど、発電には引き続き動きを利用します。
新技術を評価するには、従来の風力発電の制約も理解する必要があります。風力は再生可能エネルギーですが、風の弱い場所では採算を確保しにくいという問題があります。
発電所が消費地から離れていれば、家庭や企業へ電力を届ける送電網などのインフラも必要です。
大型風車は騒音や景観への影響を伴い、鳥やコウモリなどの野生生物にリスクを及ぼす場合があります。
ブレードレス方式や建物に合わせた小型設備は、こうした課題の一部を軽減する可能性があります。ただし、十分な風、安全な設置、環境影響の評価は引き続き必要です。
大きな外部回転翼を使わない風力発電
建物の近くで発電する風力設備は、電力網を補完する分散型エネルギー資源(DER)の一つになり得ます。適した住宅や商業施設では、太陽光と風力を組み合わせ、異なる時間帯の発電を補い合えます。風は夜間にも吹きますが、常時利用できるわけではありません。
Aeromineは、垂直に固定した翼型部材と建物周辺の気流を使って低圧域をつくります。圧力差によって装置内に空気を流し、内部のローターと発電機を駆動します。外側の構造は固定式ですが、内部には可動部品があります。
メーカーは、騒音、設置面積、保守負担の低減を利点として挙げています。実際の効果は設置場所や設備の条件によって変わります。
こうした開発は、建物の近くで風力を利用する選択肢を広げる可能性があります。本稿では2023年の視点から、技術、開発段階、想定用途を見ていきます。
Architecture 2030は2023年9月、建物やインフラを含む建築環境が世界の年間CO₂排出量の42%超を占めると説明しました。建物の運用が27%、建物・インフラ向けの主要な高排出材料であるセメント、鉄鋼、アルミニウムがさらに15%です。建物でのエネルギー対策は、排出削減に向けた重要な取り組みの一つです。
複数の企業がこの分野に取り組んでいます。ここでは二つの例と、それぞれが使う異なる技術原理を紹介します。
ブレードレス風力を開発する企業
1. Vortex Bladeless
Vortexは自社の方式をブレードレスと呼び、騒音や周辺環境への影響を抑えられる可能性を強調しています。
Vortex Bladelessは、小規模な設備から、将来的にはより大きな発電設備への展開を目指しています。回転するプロペラの代わりに、風で揺れるマストを使います。
Vortex Bladelessの仕組み
装置には固定された基部と円筒形のマストがあり、マストは風向と直角の方向に揺れます。炭素繊維の棒が部材をつなぎ、発電機には磁石による調整機構があります。
風がマストを通過すると渦が生じます。渦が交互に生じる周波数が構造物の固有振動数に近づくと共振し、マストが揺れ始めます。
その動きを、コイルと磁場の相互作用による電磁誘導で電力に変えます。
磁石はマストの見かけの剛性を変える調整機構としても働き、振動できる風速の範囲を広げます。
技術は引き続き開発段階にありました。同社は、歯車や油による潤滑、独立したブレーキ、風向に合わせて向きを変える機構が不要な設計を特徴として挙げています。製造の簡素化、設置面積の削減、長寿命化も目標です。
Vortex Bladeless: 概要
Vortex Bladelessは、マドリードやアビラに関わりを持つスペインの開発企業です。設立者にはDavid Yáñez、David Suriol、Raúl Martínが含まれます。元の記事が参照した公開情報では、2021年にTechstarsから初期資金として12万ドルを調達したとされていました。
Techstarsはアクセラレーターを運営し、若い企業に投資しています。記事に記載された1,050億ドルのポートフォリオ価値は、投資先企業の評価額を合計したもので、運用資産額とは異なります。
2. Aeromine:外部回転翼のない風力発電
Aeromine Technologiesは、商業施設の屋上に設置する風力設備を開発しています。消費地の近くで再生可能エネルギーを生み出すことが狙いです。
固定された翼型部材と建物周辺の気流によって低圧域をつくり、空気を装置内に引き込みます。内部には発電用のローターがあります。
圧力差によって吸気口からローターと発電機へ空気が流れ、その後、装置の外に排出されて周囲の空気と混ざります。
大きな回転翼を外部に露出させない設計で、同社は静かで振動が少ないと説明しています。2022年の発表では、同等の太陽光設備の約10分の1の屋上面積で設置できると主張しました。これは設置条件によって変わるメーカーの比較です。
外部構造は固定式で、十分な風があれば日射のない時間帯にも発電できます。同社が示した典型的な構成は、卓越風向に向けて建物の縁に20~40台を配置するものです。
Aeromineは2022年、屋上太陽光と同じ費用で最大50%多くのエネルギーを生み出せると説明しました。あらゆる再生可能エネルギーとの比較ではありません。また、適した条件では太陽光との組み合わせにより、建物の現地エネルギー需要の最大100%を賄えるとしました。
Aeromine Technologies: 概要
同社の公式沿革によると、Aeromine TechnologiesはCarsten Westergaard、Martin Manniche、David Asarnowによって2021年に設立されました。元の記事は米国ヒューストン地域の事業を紹介し、2023年秋にデンマークから約110万ドルの研究助成を受けたと報じています。
2023年1月、AEC AngelsがAeromineへの支持を表明しました。実際に投資したのは、その構成企業Thornton Tomasettiの投資主体TTWiiN IPです。記事では、MassChallengeから株式取得を伴わない支援を受けたとも説明されていました。
ブレードレス風力の研究が続く理由
資金提供と研究協力は技術の検証を進める手段ですが、それ自体が性能を保証するわけではありません。
リンク先の報道によれば、Aeromineはデンマークエネルギー庁のEUDPプログラムから約110万ドルの助成を受けました。商業化の可能性や気候政策への貢献など、九つの基準で評価されたと説明されています。
能力と制約を明らかにするには、さらなる試験が必要でした。デンマーク工科大学(DTU)はAeromineと協力し、さまざまな建物と風況で性能を調べる計画でした。
当時DTUで翼型・ローター設計部門を率いていたChristian Bak教授によると、研究では建物ごとの気流をモデル化し、性能を測定する予定でした。目的は、エネルギー生産量の推定と屋上の最適配置を求める計算手法の改善です。
想定用途には、適した平屋根を持つオフィス、倉庫、港湾ターミナル、病院、商業施設などがあります。建物の形や周辺環境が風に影響するため、配置の検討が重要です。
Aeromineは技術への関心が高いと説明していました。記事が紹介したコメントで、共同創業者Martin Mannicheは需要に対応するため生産を拡大していると述べています。
Mannicheは、この方式がより多くの企業にとって現地風力発電を魅力的な選択肢にすると考えていました。
Vortex Bladelessも、小規模・現地発電での利点を強調しています。大型の回転翼や歯車のない単純な構造により、製造費や保守費を抑えることを目指しています。
Vortexは複数の試作機と構想を示してきました。同社のEUプロジェクト資料では、Miniは約2.7メートル・100ワット、Atlantis構想は約12メートル・4キロワットと記載されています。開発上の仕様であり、商用設備の年間発電量を実証したものではありません。
風のエネルギーの40%を取り込める、あるいは配置密度を倍にすれば低い効率を補えるという過去の説明は、一般的な性能保証ではありません。発電量は風況、設計、装置間の気流干渉などに左右されます。
クリーンエネルギー目標の達成
2050年のネットゼロ排出を目指すシナリオでは、風力と太陽光の拡大が重要です。
従来型の風車ではタワーの高さやローター径が拡大しています。同時に、ネットゼロシナリオに沿うには年間の導入容量を大きく増やす必要があります。
2023年の記事が紹介したIEAの評価では、2030年に約7,400 TWhの風力発電量と、約17%の年平均発電量増加が必要とされました。年間の追加容量は2022年の約75 GWから2030年に350 GWへ増やす必要があるとされています。これはシナリオ上の必要量で、達成済みの結果や確実な予測ではありません。
記事の数値では、中国は2022年の世界の風力追加容量の約半分を占めました。他の国々でも導入は進んでいました。
記事はまた、風力機器の製造をより速く拡大する必要があるというIEAの評価を紹介しています。技術革新では、生産性向上と費用削減などが重視されていました。
建物に合わせた小型風力は、設置面積が限られ、十分な風がある場所で大型風車を補完する可能性があります。屋根の耐荷重、地域の風況、保守も検討する必要があります。
記事によると、風力への投資は2021年の減速後、2022年に20%増加しました。民間資金を伴う再生可能エネルギーの大型協力事業にも組み込まれていました。
AeromineやVortexへの研究助成と投資は、継続的な開発を可能にします。試験、調整、採算性の検証によって、再生可能エネルギーの普及にどこまで貢献できるかが明らかになるでしょう。














