デジタル資産
2022年6月:USDCは時価総額でUSDTを上回るのか

2022年6月時点、暗号資産の世界では「フリップニング」、つまりイーサリアムが時価総額でビットコインを上回る可能性が長く議論されていました。DeFiやスマートコントラクトの利用が拡大しても、この逆転はまだ起きていません。ビットコインはデジタル通貨や価値保存の手段、イーサリアムは分散型アプリ開発の基盤として注目されていました。ただし、両者を最有力の投資対象とする見方は評価であり、成功の保証ではありません。
ここでは別の組み合わせ、準備資産を裏付けとするステーブルコインのTether(USDT)とUSD Coin(USDC)を比較します。多数のステーブルコインがある中で両者が主導権を競っており、USDCが時価総額でUSDTを上回る可能性が論点です。
ステーブルコインが担う役割
ステーブルコインは価値の移転に使われ、他の暗号資産の大きな価格変動へのエクスポージャーを抑える手段にもなります。ただし、暗号資産をステーブルコインに交換すれば、税務上の損益が自動的に発生しなくなるわけではありません。課税関係は国や地域によって異なり、米国では資本資産として保有する暗号資産同士の交換でも損益の認識が必要になります。
貸付プラットフォームでも利用が広がり、魅力的な利回りを提示する事業者もありました。その利回りは貸付や運用の仕組みに依存し、コイン自体が保証するものではありません。発行残高、償還、流通量などは、市場心理や資金の動きを考える指標にもなります。
決済、取引、資金調達といった用途を通じ、ステーブルコインは暗号資産市場の重要な基盤となっていました。
主要な競合:USDTとUSDC
Tether(USDT)
USDTの発行元はTetherです。取引所Bitfinexとは所有者を共有する関係にあります。最初のUSDTは2014年に、以前Mastercoinと呼ばれていたOmni上で発行されました。2012年に始まったコインではありません。本記事が用いた2022年6月の時点では、時価総額は約678億4,882万8,244ドルでした。
USD Coin(USDC)
USDCは2018年9月に、CircleとCoinbaseが推進したCentreの枠組みで登場し、Circleが最初の商業的な発行者となりました。こちらも準備資産で裏付ける方式です。本記事の時点の時価総額は約559億4,396万6,695ドルで、USDTの約82%でした。Tetherの発行開始は約4年早く、6年の先行ではありません。
USDCはUSDTを上回るのか
USDCの成長によって、2022年6月には両者の時価総額の差が縮まっていました。以下は逆転の可能性を考える材料ですが、実現が確定していたわけではありません。
LUNAとUSTの崩壊
ステーブルコインの普及は、異なる安定化方式の開発を促しました。その一つがアルゴリズム型で、外部の準備資産で裏付ける方式とは異なる仕組みを用います。
TerraではUSTとLUNAの発行・焼却を連動させ、USTを1ドルに保とうとしていました。2022年5月の崩壊は、強い売り圧力の下でこの設計とインセンティブが機能しなくなった事例です。すべてのアルゴリズム型ステーブルコインが同じ設計だったわけではありません。
USTの防衛では、Luna Foundation Guardがビットコイン準備を投入し、Terraform Labsも支援しました。投入額は数十億ドル規模に上り、市場の緊張を強めました。この危機は準備資産の構成と償還能力の重要性を浮き彫りにしました。当時USDTは一部市場で一時的に1ドルを下回った後に戻り、USDCはおおむね1ドル近辺で推移しました。ただし、準備資産で裏付けられていれば今後も必ず安定する、という証明ではありません。
この出来事は市場全体にとって大きな教訓となり、準備資産、安定化の仕組み、ステーブルコイン規制を巡る議論を強めました。
規制
Circleは規制への対応をUSDCの強みとして説明していました。同社の説明は次のとおりです。「…USDCのような通貨は、米国でPayPal (PYPL )、Venmo、Apple Payなど、世界的に信頼される主要な決済企業や革新的サービスと同様の立場で規制されています。USDCの消費者保護と健全性基準を定める州の送金規制には明確な法規定があり、顧客の資金を保護するため、投資可能な資産への制限も設けられています。」
価格変動の大きな暗号資産から移る先として機能するには、準備資産の透明性と、価格の安定や償還への信頼が重要です。Circleは規制対応を通じてUSDCへの信頼を高めようとしていました。それは競争上の強みを示す主張であり、最も安全な商品であるとの公的認定や無リスクの保証ではありません。
一方、TetherとBitfinexには規制当局との紛争の経緯がありました。2021年2月、ニューヨーク州司法長官室は両社の準備資産に関する説明や資金移動を調査した上で和解に達しました。刑事裁判での有罪判決ではありません。州司法長官室は、次のように説明しました。「…準備資産を過大に示し、世界各地で生じた約8億5,000万ドルの損失を隠して、顧客と市場を欺いた」。州司法長官Letitia Jamesは、こうした行為を「無謀」で「違法」と表現しました。これらは同室の調査結果と説明として読む必要があります。
この経緯は、米国を拠点とし同国内で監督を受ける発行者を選びたい投資家の判断に影響し得ます。USDCが追い上げるとの見方を支える材料ですが、時価総額の変化をすべてこの一因で説明できるわけではありません。
透明性
Tetherの準備資産やBitfinexとの関係を巡る疑問は、開示を求める声につながっていました。準備資産に関する保証報告と、企業全体の財務諸表監査は区別する必要があります。総額だけでなく、資産の質、流動性、構成も重要です。
Circleは準備資産に関する独立した検証報告を毎月公表していました。2022年4月30日を基準日とするGrant Thorntonの報告書はこちらです。特定の時点の準備資産情報を保証業務の基準に従って検証したもので、全財務諸表の監査やCircleの内部統制の有効性についての意見ではありません。報告は定期的に公表されていました。
比較に使える指標
規制や透明性に加え、USDCがUSDTを上回る可能性を検討するには、複数の市場指標を見ることができます。
時価総額
流通量と価格から算出する時価総額は、両者の規模の比較に使えます。以下の長期チャートはその拡大を示しています。時価総額が大きいことは、1枚当たりの価格が高いことや利用者数が多いことと同義ではありません。

Tether(USDT)の時価総額の長期推移

USD Coin(USDC)の時価総額の長期推移
直近の大きな転機は2022年5月のTerra危機であり、4月8日ではありません。5月の混乱でUSDTは一部の流通市場で一時約0.95ドルまで下落しました。これはTetherが提供する直接償還の価格ではありません。この時期にはUSDTの償還とUSDCの時価総額増加が見られましたが、USDTから出た資金がすべて直接USDCへ移ったとチャートだけで断定することはできません。

Tether(USDT)の3か月間の時価総額

USD Coin(USDC)の3か月間の時価総額
2022年6月には、Tronのエコシステムに関係するUSDDも価格の維持に苦戦していました。こうした問題は準備資産への関心を高め、USDCへの注目を後押しし得ます。ただし、すべての資金が同コインへ移ったことを示すものではありません。
償還
Tetherは2022年5月21日、混乱の中で100億ドル超の償還請求に対応したと発表しました。対象は4月ではなく5月の出来事です。時価総額の減少は発行残高と市場全体の保有量の縮小を示す一方、償還が実行された事実もあります。6月初めも世界の市場には売り圧力が続いていました。
本記事は比較期間中、USDTの時価総額が約18%減り、USDCが約15%増えたと推計していました。両者の変化率の差は33パーセントポイントです。足し合わせた数値を、USDCのUSDTに対する相対的な伸びが33%だったと読むことはできません。いずれも当時の比較値であり、保有者の運用利回りではありません。
サービス事業者の採用
取引所や貸付プラットフォームは、顧客が他の暗号資産の価格変動を抑えられるようステーブルコインを提供していました。本記事はUSDCの採用拡大を指摘し、当時BTCとUSDCを中心に商品を提供していたLedn.ioを例に挙げています。ただし、2種類に対象を絞ることは商品方針であり、利回りの持続可能性や貸付の安全性を証明するものではありません。一部事業者の採用だけで、市場全体でUSDTが置き換わったともいえません。
今後の見通し
2022年6月時点では、USDCの成長やUSDTの償還から、両者の差がさらに縮まる可能性は考えられました。しかし、USDCの逆転は予測であり、避けられない結果ではありません。時価総額、流動性、サービス事業者の採用は、それぞれ異なる動きをすることがあります。
Cynthia Lummis、Kirsten Gillibrand両上院議員は2022年6月7日、暗号資産の規制を見直す法案を提出しました。名称は「Lummis-Gillibrand Responsible Financial Innovation Act」です。決済用ステーブルコイン発行者に100%の準備資産、保有可能な資産の要件、情報開示を求める案でした。本記事の時点ではまだ法案であり、USDCやUSDTの存続を保証したり、発行者や準備資産のリスクをなくしたりするものではありません。












