デジタル資産
ブータンの暗号資産保有と水力発電を活用したビットコイン採掘

ブータンは 南アジアのヒマラヤ地域に位置する内陸国で、人口は約80万人です。その経済は農業・林業、鉱業、製造業、金融、貿易に依存しています。 近年は、水力発電を利用したビットコイン採掘でも注目されています。以下は主に2024年の公表情報を振り返るものです。
2024年9月には、ブータンに関連づけられたビットコインの保有量がエルサルバドルを上回ると報じられました。この情報は、Arkham Intelligence の X 投稿をきっかけに広まりました。ただし、オンチェーン分析で特定されたアドレスの残高は、国の公式会計上の保有額と必ずしも同じではありません。
Arkhamによるブータン関連アドレスの分析

Arkham Intelligenceは2024年9月、ブータンの投資機関DHIによる採掘と関連づけたアドレスを公表しました。以下の資産名が挙げられています。
- ビットコイン
- イーサリアム
- バイナンスコイン(BNB)
- MATIC
当時の報道ではビットコイン保有量は約13,000 BTC、評価額は約7億5,000万~7億8,000万ドルとされました。評価額は価格と確認時点によって変わります。少額の別トークンがウォレットにあるだけでは、政府による計画的な購入や運用を証明できません。
イーサリアムについても、ブータンに関連するとされたウォレットが約656.013 ETH、当時約150万ドル相当を保有していたとの報道がありました。また、ウォレットの関連づけだけでは政府がイーサリアムの蓄積戦略を拡大したと断定できません。
Arkhamはブータンを、自社が追跡する政府関連ビットコイン保有額で第4位と位置づけました。これは同プラットフォーム上の2024年9月時点の分類です。原文の「供給量の2.2%」は世界の政府保有全体に関する推計であり、ブータン単独の比率ではありません。
以下では、この情報の背景にある採掘事業とエネルギー利用を見ていきます。
ブータンの暗号資産蓄積戦略
ブータンのビットコイン保有の評価額を年間GDPと比較すると規模の大きさが分かります。ただし資産残高と年間の生産額は異なる指標であり、比較比率はビットコイン価格にも左右されます。
人口が異なる国同士では、一人当たり保有量も違ってきます。比較には同じ時点の人口と残高を用いる必要があります。
こうした保有は一度の購入で形成されたものではなく、複数年にわたる採掘事業と関係しています。
DHIの採掘事業は2023年に公に説明されました。開始時期や当時の価格については報道に幅があるため、特定の日付を投資開始日と断定するのは避けるべきです。2024年には設備拡張も進められていました。
ブータンが他のビットコイン保有国と一線を画す点は、採掘に関与していることです。次のセクションではビットコイン生成プロセスを見ていきます。
ブータンはどのように BTC を生成するのか?
ブータンには豊富な水力資源があります。23,760 MWという数字は開発可能性に関する推計であり、当時稼働していた設備容量や実際の発電量ではありません。設備容量を米国の住宅数や都市の消費量に置き換えるには、稼働率や年間発電量などの条件が必要です。
ビットコイン採掘は電力を大量に使用します。原文が引用する年間消費量の推計は91~150テラワット時ですが、推計年と方法によって変動します。水力の利用割合についても、採掘者の人数の割合と消費電力の構成比を区別する必要があります。
ブータンでは、水力発電による電力を採掘に利用する事業が進められました。ただし、環境負荷や持続可能性への影響は、発電設備、季節変動、電力の他の用途、採掘機器の製造・廃棄も含めて評価する必要があります。
パンデミックによる観光収入の減少は、収益源を多様化する必要性を高めました。余剰電力の採掘利用は選択肢の一つですが、観光がGDPの大部分を占めていたとする原文の表現は適切ではありません。
Druk Holding and Investments(DHI)の役割

出典:Bhutan Broadcasting Service
DHI は、すべての世代のブータン人のために国家財産を保護・増大させることを目的としています。
同社の現在の保有資産にはエネルギー、通信、金融、交通など幅広い分野の企業が含まれます。DHIは政府の投資を長期的に管理する機関であり、デジタル資産の採掘にも関与しています。
DHIは、後に破綻したBlockFiやCelsiusからデジタル資産を借り入れたことを説明しました。当時のCEOウッジャル・ディープ・ダハルによると、関連する借入は返済・精算済みで未払いはないとのことでした。これは同氏の説明として扱う必要があります。
DHIとシンガポールのBitdeerは2023年5月、最大5億ドル規模を目指すファンドの設立計画を発表しました。これは資金調達の目標であり、発表時点で全額が集まったことを意味しません。
DHIの目的は国家資産の長期的な運用です。ビットコイン収益の公的支出への利用については報道もありますが、特定の給与増額率を一律に暗号資産の売却だけに結びつけるには、公的財政資料による確認が必要です。
投資が国民の利益につながるかどうかは、収益だけでなくリスクと機会費用も含めて判断する必要があります。
ブータンの水力発電の活用

Nasdaq 上場企業である Bitdeer Technologies (BTDR ) グループは、DHI と協力して水力発電を活用するデジタル資産採掘事業を進めています。再生可能電力の利用は運用時の排出削減に寄与し得ますが、設備建設や機器製造を含む全過程の排出がゼロになるわけではありません。
先に述べたグリーン暗号ファンドは、ブータンのテックセクターに貢献する国際的なステークホルダー・ネットワークを構築するプラットフォーム創出を目指しています。DHI にとっては、新たな収益源を開拓し、エンジニアリング、プロジェクトマネジメント、監督・支援業務など多様な分野で雇用機会を創出することが目的です。
2024年には、既存の100 MWのGedu拠点に加えて500 MWのJigmeling計画が進められていました。合計600 MWという計画容量と、当時実際に稼働していた容量は区別すべきです。
Arkham Intelligenceは、ブータンが複数の拠点にビットコイン採掘施設を建設していると説明しました。Arkhamは、関連アドレスの活動を施設建設の衛星画像と照合し、保有の主な由来を資産没収ではなく採掘と位置づけています。
Forbes に掲載された報告は、王国が運営すると見られる4つの採掘サイトを特定しました。この特定は、Planet Labs、Satellite Vu、Google Earth から取得した衛星画像に大きく依存しています。
報道では、冷却設備や変電設備、送電線などを手掛かりに拠点が推定されています。衛星画像による推定は、政府が各施設の運用を公式に確認したこととは異なります。
Dochula パス付近のパイロット拠点
報道の衛星画像分析では、2020年ごろに工事が始まり、2022年末までに施設が形成された可能性が示されています。森林に囲まれた立地ですが、外部から完全に見えないと断定することはできません。
Trongsa と Dagana:第2・第3ユニットの所在地
報道では、トンサとダガナにも施設候補が挙げられています。これらの立地情報は報道による分析として扱う必要があります。
Education City 採掘センター
Education Cityは実現しなかった教育都市計画で、その敷地が採掘施設に使われたと報じられています。米国政府が建設した事業とする説明は確認されていません。また、機器の輸入額を示す税関統計は衛星画像から読み取れるものではありません。
これらとは別に、Bitdeerは南部Geduの100 MWデータセンターが2023年後半に稼働したと公表しています。物理的な鉱石を掘る鉱山ではなく、ビットコイン採掘用のデータセンターです。
DHIは電力関連企業も傘下に持ちます。採掘機器の台数については、納入済み、発注済み、稼働中の区分と更新時点を確認する必要があります。
ブータンの事例は、水力発電とデジタル資産採掘を組み合わせた収益化の試みです。次に、他の地域での再生可能エネルギー利用を見ていきます。
地理的に孤立したエネルギーを利用したビットコイン採掘
最近公表されたレポートによると、ビットコイン採掘者は水力発電への転換を進めており、特にカナダ・ケベック州のように水力資源が豊富な地域で顕著です。
アイスランドでは地熱や水力などが採掘の電源として利用されます。寒冷な気候は冷却負荷を減らす可能性がありますが、冷却設備そのものが不要になるわけではありません。
テキサス州などでは、採掘事業者が太陽光や風力を利用する例があります。需要に応じて消費を減らす運用は電力系統の需給調整に役立つ可能性がありますが、採掘負荷を増やすだけで系統が安定するわけではありません。
米国企業にも再生可能エネルギーを利用する例があります。以下は2024年当時のCipher Miningの事業情報です。
Cipher Mining Inc.(Nasdaq:CIFR)
Cipher Mining (CIFR ) は、米国でビットコイン採掘施設を運営する企業です。以下の事業・決算説明は原文の2024年時点に関するものです。
原文では電力単価として平均 2.7 セント/kWhという数値が挙げられていますが、契約条件や対象期間、追加料金によって実際の費用は変わります。全施設が同じ単価や電源構成という意味ではありません。
2024年当時の拠点には、次の施設などがありました。
- Odessa(オデッサ)
- Alborz(テキサス州)
AlborzはWindHQとの合弁事業による拠点で、2022年に採掘を開始しました。2023年末時点の公表資料では40 MWの設備で、近隣の風力発電を利用していました。CipherにはBearやChiefの拠点もあり、上記二つだけが全拠点ではありません。
再生可能電力の利用は事業戦略の一要素ですが、収益性はビットコイン価格、採掘難易度、電力価格と設備投資などにも左右されます。政策上の評価や投資利益が保証されるわけではありません。
CIFR 価格チャート
これらは当時の計画であり、将来の設備完成や収益を保証するものではありません。
結びの言葉
ブータンの事例は、再生可能電力を採掘に利用する可能性を示しています。電力需要に応じて使用量を変えるエネルギー消費の柔軟性を生かせれば、需給調整に役立つ場合があります。
再生可能電源の近くに施設を配置することで、送電制約などにより利用されにくい電力を活用できる可能性もあります。
一方で、地域の電力需要、発電の季節性、送電設備や環境への影響を考慮しなければなりません。遠隔地の電力利用も、採掘が常に最適な用途であることを意味しません。












