規制
ESMA、内部情報の開示延期規則に正当な利益を5項目追加

欧州証券市場監督局(ESMA)は2026年10月16日、市場濫用規則(MAR)に基づく内部情報の開示延期に関するガイドラインを改定・簡素化し、延期を正当化し得る利益を5項目追加するとともに、長期にわたるプロセスに関連する正当な利益を削除して、規制枠組みの改定を完了した。
MARの下では、発行体は投資家への情報提供とインサイダー取引の防止のため、自らに関する内部情報を可能な限り速やかに開示しなければならない。特定の状況では、正当な利益が損なわれるのを避けるため、発行体は公表を延期できる。ガイドラインは、その判断を支援するため、延期を正当化し得る正当な利益を網羅的ではないリストとして示している。
ESMAによると、公開協議を経て特定された5つの追加的な正当な利益は、次のような状況を対象としている。公的機関から情報を開示しないよう求められた場合、発行体が市場参加者による内部情報の適切な評価を可能にするため追加情報を収集する必要がある場合、機密性の高い商業情報を開示すると事業機会を失うおそれがある場合、発行体の統治機関の構成員または重要な役職に就く管理職の任命が危うくなるおそれがある場合、そして同一グループ内の企業に関する内部情報を開示すると発行体に直接的な不利益が生じ、グループ内の別の企業が適用した開示延期の実効性が損なわれるおそれがある場合である。
2026年6月以降、発行体は、長期にわたるプロセスに関連する内部情報を、プロセスの完了前に直ちに開示する必要がなくなった。ESMAは、規制の簡素化と負担軽減という目的に沿って、こうしたプロセスに関連する開示延期の正当な利益をガイドラインから削除したと説明した。
上場法の概要
上場法の立法パッケージは2024年11月14日に欧州連合官報で公表され、その20日後に発効した。同パッケージに含まれる2024年10月23日付の規則(EU)2024/2809は、目論見書規則、MARおよびMiFIRを改正した。同規則第4条第3項に基づき、MARの開示制度に関する変更は2026年6月5日に適用が開始された。
MARの新たな第17条第1項では、長期にわたるプロセスの中間段階に関連する内部情報について、可能な限り速やかに公衆に知らせる義務は適用されないと定めている。開示が必要なのは最終的な状況または最終事象のみであり、それが発生した後、可能な限り速やかに開示しなければならない。新設された第17条第4a項は、中間段階に関する情報を開示延期の要件の対象外とし、第17条第7項は、その情報の機密性が確保されなくなった場合、可能な限り速やかに開示するよう求めている。
上場法はまた、第17条第4項(b)に定める「延期が公衆を誤解させるおそれがないこと」という条件を、次の要件に置き換えたと最終報告書は述べている。「発行体または排出枠市場参加者が延期しようとする内部情報は、その内部情報が対象とする同一の事項について、発行体または排出枠市場参加者が行った直近の公表またはその他の種類の伝達内容と矛盾してはならない」。直ちに開示すれば正当な利益が損なわれるおそれがあること、および発行体が機密性を維持できることという、延期に関する他の2つの条件に変更はなかった。
関連する最終事象がいつ発生したとみなされ、いつ開示されなければならないかを定め、長期にわたるプロセスの網羅的ではないリストを設ける2026年4月8日付の欧州委員会委任規則(EU)2026/789は、2026年7月16日に官報で公表された。ESMAは2024年6月、委任法令に関する技術的助言を求める欧州委員会の要請を受け、2025年5月に助言を公表した。上場法はまた、ESMAに対する当初の第17条第11項の委任事項を改め、発行体の正当な利益について網羅的ではない参考リストを定めるガイドラインを策定するよう指示した。ガイドラインは2016年10月20日に初めて公表され、2022年4月13日に見直されている。
協議の結果と最終的な文言
ESMAは2026年2月、4つの質問を盛り込んだ協議文書を公表した。協議は2026年4月29日に締め切られ、主に発行体からなる28の回答者から意見が寄せられた。また、ESMAは証券市場利害関係者グループ(SMSG)にも助言を求めた。
公的機関による命令について、ESMAは、「別途認められている権限」とは判例法によって認められている権限を指すこと、公的機関の定義には第三国の当局も含まれること、そして開示延期は命令が求める期間に限られ、命令の期限が切れた時点で開示が必要になることを明確にした。ESMAは、発行体に対し、第17条第4項に基づいて各国の所管当局に提出する書面による説明を裏付ける記録を保管するよう提案した。
重大なインシデントやサイバー攻撃などの例外的な事象が発生した後に追加情報を収集する場合について、ESMAは、損害の概算が可能になり次第、詳細な分析に先立って開示すべきであり、発行体はその後に追加情報を提供してもよいと述べた。サイバーインシデントについて48時間以内とするような固定の期限は退け、個別の事情に応じて判断する方針を示した。また、収集したデータの分析や是正措置にまで正当な利益の範囲を広げることも認めなかった。これらを含めると市場への情報提供が過度に遅れるためだという。MARに基づく開示義務は、NIS 2、DORAおよびGDPRに基づくインシデント通知義務を妨げるものではない。
事業機会について、ESMAは、当初の提案にあった公共調達の例にとどまらず、民間の競争環境にも正当な利益の範囲を広げた。ただし、商業上機微な情報の開示によって直接損なわれるおそれのある、特定可能で具体的な事業機会であることを条件とした。最終的な例には、並行して行われる入札の参加者が、開示された条件を踏まえて入札内容を調整する場合や、新市場への参入または新製品の発売に関する合意・決定を開示することで、競合他社が戦略を調整できるようになる場合が含まれる。機密性の維持が開示延期の条件であるため、戦略の採用に必要な具体的措置を講じても機密性を保てなくなった時点で、発行体は開示しなければならないとESMAは改めて説明した。
協議後、正当な利益がさらに2つ追加された。発行体は、経営機関の構成員、管理職、その他の重要な役職への任命を決定した場合、その人物が現職の雇用主にまだ知らせていなければ、開示を延期できる。ただし、対象は正式に下された決定に限られ、延期期間も厳密に必要な期間に限られる。また、ある企業グループ内の事業体が第17条第4項に基づいて開示を延期した場合、同じグループの別の事業体も、その情報が両社に直接関係するときは、同じ期間に限り、同じ情報の開示を延期する正当な利益を有することがある。これによってグループ全体に自動的に正当な利益が認められるわけではないとESMAは強調した。また、MAR第10条により、グループ内での内部情報の開示は、雇用、職業または職務の通常の遂行に必要な場合に引き続き制限される。
ESMAは、長期にわたるプロセスの中間段階に関するガイドライン1の(a)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)を削除した。また、延期によって公衆を誤導するおそれがある状況を扱うガイドライン2は、その主題がもはやESMAの権限の対象ではないとして、全体を削除した。ガイドライン2の削除に反対する意見は、協議で寄せられなかった。財務健全性に関する旧(b)は維持されたが、倒産法上の用語である「発行体の存続可能性」は、より広く専門性の低い「財務困難」に置き換えられた。また、この利益の対象は、委任法令の対象外である初期段階の財務困難に限定され、発行体が流動性と資本の回復に向けた具体的な措置を積極的に講じていることが条件とされた。利益の減少警告など、単なる業績悪化にはこの利益は適用されず、そうした場合には引き続き第17条第1項が適用されるとESMAは述べた。この質問に回答した26者のうち、24者はこの利益の維持を支持し、2者は反対した。
ESMAは、重要な幹部の辞任について正当な利益を追加することを認めなかった。開示を延期すれば、ガバナンス上の空白が隠されるためだという。また、第三者、当局または従業員との事前調整についても追加を認めず、適時開示に必要なセーフガードの一部だと説明した。契約上の守秘義務条項については、任意に盛り込まれた条項によって発行体が開示時期を過度に裁量できるようになり、悪用されるおそれがあるとして、追加を退けた。規制当局の調査、税務上の裁定、規制当局との交渉は長期にわたるプロセスの中間段階に当たるとし、裁判所の命令や暫定的な差止命令は、新設された公的機関に関する項目の対象になるとした。
ESMAは、正当な利益の一覧は網羅的なものではなく、発行体は個別の事情に応じて追加の正当な利益を特定できると述べた。一方、第17条第1項が可能な限り速やかな開示を求めているため、列挙された利益は限定的に解釈しなければならない。内部情報の存在を確認した発行体は、まず委任法令の一覧に基づき、その情報が長期にわたるプロセスの中間段階に当たるかを評価すべきである。開示延期の仕組みは、単発の事象にも、最終的な事象または状況にも適用されるが、すべての条件を満たす必要がある。
改訂ガイドラインは、ESMAのウェブサイトにEUの公用語24言語で掲載された日から適用され、MAR第22条に基づいて指定された所管当局と発行体を対象とする。EUの全言語で掲載されてから2か月以内に、所管当局は、ガイドラインを遵守する、遵守していないが遵守する意向がある、または遵守せず今後も遵守する意向がない、のいずれに該当するかをESMAに通知しなければならない。遵守しない場合は、その理由も示す必要がある。発行体には、遵守状況を報告する義務はない。ESMAの費用便益分析では、所管当局に新たな義務は生じず、発行体に新たな手続き要件も課されず、コンプライアンス費用も発生しないとされている。
ガイドラインは、第二の柱の資本要件(P2R)と第二の柱の資本ガイダンス(P2G)に関する従来の指針を維持している。この指針では、機関による綿密な評価を経たごく限られた場合を除き、P2Rは内部情報として扱うことが想定されている。SMSGは2026年5月26日に助言を採択し、改訂をおおむね支持する一方、「2026年6月5日から、最終ガイドラインが公表される見込みの2026年第4四半期までの間に、重大な移行期のガイダンスの空白が生じる」と指摘し、ESMAに暫定的なガイダンスを示すよう勧告した。












